改正労働契約法(有期労働)を正しく理解し活用しよう/嶋﨑量(事務所だより2012年8月発行第45号掲載)

news201208_small改正の意義

  非正規雇用労働者の不安定雇用や処遇の劣悪さが問題となっていますが,実はこのような非正規雇用労働者の多くは「有期労働契約」(労働契約に期間の定めがある契約:我が国で約1200万人)です。そして,非正規雇用労働者にとって,「有期」契約であることが,その労働条件改善にとって大きなハードルとなっていました。
 というのは,「有期」契約であるが故に,次の契約更新で使用者から不利益に取扱われることを恐れて,本来認められている権利(例えば有給休暇や残業代請求)を行使できない,セクハラ・パワハラにも泣き寝入りするしかないといった状態におかれるからです。また,「有期」契約であるというだけで,賃金や福利厚生などに不合理な差別が多くの職場でみられました。
 このような状況が放置されてきた最大の原因は,我が国の労働法で,これまで「有期労働契約」に着目した法規制が存在しなかったことです。
 そんな中,2012年8月3日,この有期労働契約に関して労働契約法が一部改正されました(以下の「改正法のポイント」参照)。この改正は,我が国で増え続ける非正規雇用労働者の雇用の安定と処遇の改善を,(不十分ではあるものの)一定限度図る内容となっています。


<改正法のポイント>

(1) 改正18条
 有期労働契約が更新されて通算契約期間が5年を超える場合の期間の定めのない労働契約へと転換権を付与する規定
(2) 改正19条
 有期労働契約に対して判例で認められてきた雇止め法理をそのまま成文化する規定
(3) 改正20条
 有期雇用を理由とする不合理な労働条件を禁止する規定


 以下,とりわけ重要な(1)と(3)の改正点について,簡単に説明したいと思います。

改正18条 有期労働契約が更新されて通算契約期間が5年を超える場合の期間の定めのない労働契約へと転換する規定

  この規定によって,有期契約労働者には,5年を超えて有期雇用を反復更新して継続してきた場合,労働者が申込みをすることで,有期雇用から期間の定めがない契約(無期雇用)へと転換する権利が与えられます。この規定で有期労働契約の反復更新による濫用が防止され無期雇用へと転換することで,不安定雇用であることが理由となって当然の権利主張を事実上妨げられてきた有期雇用労働者の不合理な状況も改善するでしょう。また,無期雇用への転換が促進され,非正規労働者である有期労働契約者が正社員へと転換するための足がかりとなり得るものです。
 とはいえ,今回の改正により,有期労働契約を5年を超えて反復更新することが禁止されたと誤解した使用者や,労働者の無期転換権行使を免れようとする悪質な使用者によって,5年の期間到達前に労働契約が更新されなくなってしまう(「雇止め」)という制度導入による副作用が生じるのではないかとも危惧されています。
 ですが,規定が無期転換権を付与した趣旨は,有期契約労働者を無期雇用に転換することで雇用の安定を図ることにあります。にもかかわらず,労働者が無期転換権を行使するのを嫌がり,使用者が労働者の雇用を打ち切るような事態は,絶対に許されません。このような雇止めは「今回の無期転換ルールの趣旨からしましても,5年のところで雇止めが起きてしまうと,この狙いとは全く違うことになってしまいます」(国会での小宮山厚生労働大臣答弁)。
 ですから,今後来春の法律の施行までの間に,このような脱法的雇止めは絶対に許されないという正しい法の理解を,使用者に周知徹底していく必要があります。そして,万が一にも,このような無期転換権行使の脱法を意図した悪質な雇止めが行われないように,このような会社を社会全体で厳しく監視・糾弾しなければなりません。
 とはいえ,この規定は,労働者の雇用期間を無期雇用に転換するだけで,それ以外の賃金・労働時間・年金などの待遇は,原則として有期雇用のときと変わりません。ですから,この規定で直接付与されているのは,「正社員」への転換権ではなく,あくまで「無期雇用」への転換権に過ぎないのです。
 では,無期転換後に,この改正法が意図した正社員化をすすめるには(賃金や年金などの待遇改善を図るには)どうするのか・・・。そこでは,労使交渉でのルール作りが重要になります。改正法では「別段の定め」があれば従来の労働条件と異なるものになるとされており,この「別段の定め」を活用し,正社員化に近づける労働条件を労使で協議し進めていくことが求められています。
 ですから,正社員化に向けて大きな役割が期待されるのは,実は労働組合の存在です。転換後の待遇を正社員に近づけるよう,各職場の労働組合が労使協議を進めていくことが期待されているのです。
 とはいえ,残念ながら,多くの職場には労働組合が存在しないのが実態であり(労働組合の組織率20%以下),その点がまた大きな課題です。願わくば,この改正を機会に,少しでも多くの職場で労働組合が存在する意味を見出して,新たな労働組合が結成され,現存する労働組合の存在価値が見直されればと思います。

改正20条 有期雇用であることを理由とする不合理な労働条件を禁止する規定

 これまで日本では,全く同じ仕事をしている労働者間に,単に雇用期間が有期雇用であるという理由だけで,賃金や通勤手当など労働条件に不合理な差異があっても,これを禁止する規定がありませんでした。
 この規定によって,労働契約の期間の定めを理由とする「不合理」な処遇格差が禁止されます。その不合理な労働条件は無効とされ,無期労働契約者と同じ労働条件が認められることになることが国会答弁で確認されています。
 また,何が「不合理」であるかは,労働者の職務の内容や配置変更の範囲などの事情から判断されるので,画一的に結論を導くことはできません。ですが,例えば,職務や長期的な人材活用と直接関係しない通勤手当などに「差を設けることは,特段の理由がない限り,合理的とは認められがたい」(国会での西村副大臣答弁)となるでしょう。
 したがって,各職場において,使用者がこの規定の趣旨を正しく理解し処遇改善の取り組みを行うことが強く期待されますし,労働者側でもこの規定を積極的に活用して処遇改善を求め取り組むことが期待されます。
 とはいえ,実際の職場で,労使の力関係により,使用者の一方的に「合理的」な差異だという判断がまかり通れば,この規定の実効性は大きく損なわれてしまいます。ですから,この規定を生かすには,やはり労働者の側で,使用者にこの規定の趣旨が有期契約労働者の処遇改善を図ることにあると正しく理解させ,労使協議をすすめていく必要があります。ここでもやはり大きな役割が期待されるのは,労働組合の存在なのです。

最後に

 この改正の積極的な側面を中心に取りあげてきました。ですが,今回の改正だけでは,有期雇用労働者の不安定な雇用や処遇が抜本的に改善することは有り得ないでしょう。
 使用者にとって使い勝手がよいというだけの理由で増え続けた非正規雇用の増加を抜本的に変えるには,何よりも今回の改正で導入が見送られた有期労働契約の締結事由を合理的な場合に限定する規制(いわゆる「入口規制」)の導入が不可欠です。また,せっかくの無期転換権も「5年」も待たねば付与されないのは余りにも長すぎます。さらに,改正法ではこの「5年」の通算契約期間に算入されない空白期間が認められており,これもせっかくの無期転換権付与に対する脱法的利用がなされる危惧もあります。
 要するに,今回の改正は,あくまでも有期契約労働者保護のための,あくまでスタートに過ぎません。今回の改正の正しい運用がなされるように,正しい法の趣旨を周知徹底させていくとともに,今後も引き続き、有期労働契約の実効性のある規制が実現されるように,(雇用形態を問わず)多くの労働者の声を広げていくことが必要です。


 有期契約労働者に代表される,不安定・不適正な処遇の非正規雇用労働者の増加(労働者の約40%)により破壊されているのは,その労働者自身の生活だけではありません。多くの国民(とりわけ若者)が将来に希望をいだけない現状は,日本経済から活力をそぎ,日本社会全体の大きなリスク要因になっています。非正規雇用労働者を利用した人件費削減による一時的な企業の利益拡大が,労働者の勤労意欲や技能伝承の点を考慮すれば,企業の将来の永続的な発展につながるはずもなく,さらには,日本社会全体の活力を生み出すはずもないのです。
 雇用の原則は,本来無期・直接雇用であり,どんな雇用形態であり適正な処遇が実現する必要があり,今回の改正は非正規雇用の正社員化に向けてのステップとなるよう,意図されたものです。
 私は日本労働弁護団の本部事務局次長として,今回の改正に向けて国会議員の方と意見交換をさせていただきました。その際,大変熱心に耳を傾けていただいた石橋通宏議員が,上記の非正規労働者増加の現状を踏まえた改正の趣旨などを参議院厚生労働委員会でご質問され,これに呼応する小宮山厚生労働大臣の答弁を引き出していただきました。
 今回の法改正を契機に,社会全体で,今後も継続的にこの非正規雇用の問題を考えていく必要があるのでしょう。

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